オーストリア建国1000年記念展 ハプスブルク・帝国の栄光と遺宝
No:0047_0001
マルスとヴィーナス
Mars und Venus
油彩、カンヴァス、206×161cm(Oil on canvas 206×161cm)
1578年頃(c.1578)
メトロポリタン美術館(The Metropolitan Museum of Art)
【絵画の中のギリシア神話】 アレスとアフロディテの話
アレスは軍神、アフロディテは愛と美の女神で、共にオリュンポス12神と呼ばれる主要な神様の一員です。ギリシア神話とローマ神話の違いにより、アレスはマーズ、マルスとも呼ばれ、アフロディテはヴィーナス、ウェヌスとも呼ばれます。
ヴィーナスという呼び名は一般的に知られていますが、アレスはその有名なヴィーナスの浮気相手として有名です。アレスに妻はいませんが、アフロディテには夫のヘパイストス(ウルカヌスとも呼ばれます)という鍛冶の神がいますので、この2神の関係は「浮気」になります。
この2神、結構仲が良く「トロイの木馬」で有名なトロイア戦争の時も二人してトロイア側についていました。
実はアレスについての物語はこの「アフロディテとの浮気」と「トロイア戦争で人間に負けた」の2つでほとんどになります。軍神アレスの如く、とか比喩としては良く出てきますが、物語的には少ないですね。
ちょっと話は逸れますが、アレスが人間(ディオメデスという英雄です)に負けた、というのはディオメデスに女神アテナがついていたからで、純粋に負けた訳ではありません(流石に神様ですからねぇ、人間には負けません。アテナさんに負けたのであれば納得できますね)。
さて、アレスとアフロディテの浮気ですが、夫のヘパイストスにバレて手酷い仕打ちを受けます。ホメロス 著/松平千秋 訳「オデュッセイア(上)」(岩波文庫)の「第八歌 オデュッセウスとパイエケス人との交歓」には、
ふたりの神は床に入って横になったが、忽ちふたりの体には、名匠ヘパイストスが巧妙に作り上げた網がまつわりついて、手足を動かすことも挙げることもままならぬ。この時ふたりは、もはや逃れる術のないことを悟ったが、一方両脚の曲がった高名の神は、レムノスの地に着く前に、とって返してふたりの神に近付いてきた(p202抜粋)。
とあります。この後、網に捕まったままの姿を他の神々に晒され、笑い者にされますが、(「パーシージャクソンとオリンポスの神々」で有名になりそうな)海神ポセイドンのとりなしにより、ようやく2神は解放されます。
因みに「両脚の曲がった高名の神」とはヘパイストスの事で、イリアスでは「足萎えの神」とか書かれています。足が不自由になったのは、生まれた時に母親の女神ヘラに「醜い」という事で天上から落とされたからです(虐待ですね……更に可哀想な事に、和解したヘラに味方してゼウスと言い争いをした際、今度はゼウスに天上から落とされています)。
この絵画は青字部分を描いた物と思います。
アレスとアフロディテには子供が生まれています。ヘシオドス 著/廣川洋一 訳「神統記」(岩波文庫)の「アレスとアプロディテの子」には、
さて キュテレイア(アプロディテ)は 皮盾引裂くアレスに 怖るべき者ども 狼狽(ポボス)と恐怖(デイモス)を生まれた。<略>また ハルモニアを生まれたが この方を 意気旺(さか)んなカドモスが妻にした(p116,p117抜粋)。
とあります。「イリアス」でもアレスはポボスとデイモスを引き連れて戦場に向かう事が書かれていますが、アフロディテとの子供だったんですね。
アフロディテがトロイア戦争でトロイア側なのは「一番美しい女神へ」と書かれた林檎をトロイアのパリスから受け取ったので当然ですけど、アレスは「アフロディテの愛人だからトロイア側」ぐらいにしか思っていませんでしたが、アフロディテとの子供じゃあトロイア側につかざるを得ないですね。何となく、納得。
因みにもう一人のハルモニアは「調和」という意味だそうです。戦争と愛から生まれたのが調和……なるほど。まぁ確かにそうなのかもしれないですね。
美術手帳7月号増刊「カラー版西洋絵画の主題物語 Ⅱ神話篇」(株式会社美術出版社)の73ページに、この絵画が載っており、
ヴェロネーゼ[ウェヌスとマルス] | 1578 | 油彩 | The Metropolitan Museum of Art,New York.
John Stewart Kennedy Fund.