光と闇 華麗なるバロック絵画展 リングリング美術館とボブ・ジョーンズ大学コレクションによる
European Baroque paintings : from the John and Mable Ringling Museum of Art and the Bob Jones University Museum & Gallery
19970619-19970727
No:0040_0001
ヴィーナス、マルス、クピドとクロノス
Venus,Mars,Cupid and Chronos
油彩、カンヴァス、146×107.9cm(Oil on canvas 146×107.9cm)
1640年頃(c.1640)
リングリング美術館(The John and Mable Ringling Museum of Art)
【絵画の中のギリシア神話】 アレスとアフロディテの話
アレスは軍神、アフロディテは愛と美の女神で、共にオリュンポス12神と呼ばれる主要な神様の一員です。ギリシア神話とローマ神話の違いにより、アレスはマーズ、マルスとも呼ばれ、アフロディテはヴィーナス、ウェヌスとも呼ばれます。
ヴィーナスという呼び名は一般的に知られていますが、アレスはその有名なヴィーナスの浮気相手として有名です。アレスに妻はいませんが、アフロディテには夫のヘパイストス(ウルカヌスとも呼ばれます)という鍛冶の神がいますので、この2神の関係は「浮気」になります。
この2神、結構仲が良く「トロイの木馬」で有名なトロイア戦争の時も二人してトロイア側についていました。
実はアレスについての物語はこの「アフロディテとの浮気」と「トロイア戦争で人間に負けた」の2つでほとんどになります。軍神アレスの如く、とか比喩としては良く出てきますが、物語的には少ないですね。
ちょっと話は逸れますが、アレスが人間(ディオメデスという英雄です)に負けた、というのはディオメデスに女神アテナがついていたからで、純粋に負けた訳ではありません(流石に神様ですからねぇ、人間には負けません。アテナさんに負けたのであれば納得できますね)。
さて、アレスとアフロディテの浮気ですが、夫のヘパイストスにバレて手酷い仕打ちを受けます。ホメロス 著/松平千秋 訳「オデュッセイア(上)」(岩波文庫)の「第八歌 オデュッセウスとパイエケス人との交歓」には、
ふたりの神は床に入って横になったが、忽ちふたりの体には、名匠ヘパイストスが巧妙に作り上げた網がまつわりついて、手足を動かすことも挙げることもままならぬ。この時ふたりは、もはや逃れる術のないことを悟ったが、一方両脚の曲がった高名の神は、レムノスの地に着く前に、とって返してふたりの神に近付いてきた(p202抜粋)。
とあります。この後、網に捕まったままの姿を他の神々に晒され、笑い者にされますが、(「パーシージャクソンとオリンポスの神々」で有名になりそうな)海神ポセイドンのとりなしにより、ようやく2神は解放されます。
因みに「両脚の曲がった高名の神」とはヘパイストスの事で、イリアスでは「足萎えの神」とか書かれています。足が不自由になったのは、生まれた時に母親の女神ヘラに「醜い」という事で天上から落とされたからです(虐待ですね……更に可哀想な事に、和解したヘラに味方してゼウスと言い争いをした際、今度はゼウスに天上から落とされています)。
この絵画は青字部分を描いた物と思います。カタログには、
クラテスの言葉とは、「飢えは愛を打ち負かす。もし飢えでなければ時が、それでも不十分ならば罠(laquenus)が」というものである。<略>ということは、このクラテスの言葉は、マルスとヴィーナスの恋を終わらせた、ウルカヌスの狡猾な罠にも通じることになるだろう。それゆえ、ヴーエは本作品で、恋を打ち負かす力を有する時の擬人像クロノスに、ウルカヌスの作り出した罠である網を持たせたのではないだろうか(カタログp94抜粋)。
とあります(クロノスは大神ゼウスの父親です)。確かに良く見るとクロノス(白髪の老人)が「網」を持っています。カタログを見るまで気づきませんでした。
う~ん、色恋事は「経済力(?)、時間、罠」の順で冷めていくという事ですかね。「ケレスとバッカスがいないとヴィーナスは凍えてしまう」という絵が本館にもありますし、情熱的な「好きという気持ち」は大体1~3年ぐらいというのをテレビで見ましたので、正しいような気がします。深い絵画ですね……。