テイト・ブリテン発世界巡回展 ヴィクトリアン・ヌード 19世紀英国のモラルと芸術
No:0004_0001
イカロスの哀悼
The Lament for Icarus
油彩・カンヴァス、182.9×155.6(Oil on canvas 182.9×155.6)
1898年(1898)
テイト(Tate. Presented by the Trustees of the Chantrey)
イカロスは名工ダイダロスの息子で、ダイダロスがクレタ島のミノス王を裏切った為、迷宮に閉じ込められますが、蝋と羽で翼を作り親子で脱出をします。イカロスは空を飛べたことを喜び、高く飛びすぎた為、太陽の熱で蝋が溶けて墜落し、命を落としてしまいます。
美術展のカタログには、
大きな翼の上に力なく身を横たえるイカロスに、3人のニンフが寄り添い、その完成された肉体美に驚嘆するとともに、彼の死を悼んでいる(カタログp148抜粋)。
とあります。3人のニンフというのは海神ネレウスの娘、ネレイス達(複数形はネレイデスというらしいです)の事だと思われます。
ネレイス達に墓まで作ってもらった話もあり、どうしても「ちょい役なのにいい扱いが多いなぁ」と思ってしまうのは私だけでしょうか?(別に妬んでいる訳ではないですが……)
詳しくは→ 【絵画の中のギリシア神話】 イカロスの話
No:0004_0002
プシュケの水浴
The Bath of Psyche
油彩、カンヴァス、189.2×62.2(Oil on canvas 189.2×62.2)
1889-90年頃(c.1889-90)
テイト(Tate. Presented by the Trustees of the Chantrey)
【絵画の中のギリシア神話】 プシュケの話
プシュケはとても美しかった為(もっともギリシア神話の98%以上は美女ですが……)、美の女神アフロディテより崇拝されました。アフロディテは腹を立て、息子のクピドに醜男と結婚するように仕向けますが、クピドはうっかりと「惚れる矢」で自分を傷付けてプシュケを愛してしまいます。
プシュケは神託により、花嫁としてクピドの用意した宮殿に連れ去られます。この宮殿では美しい音楽が流れ、自動的に食事が用意され、何不自由なく暮らせるようになっていました。夜になるとクピドが臥所を共にしましたが、姿は見せませんでした。この話を聞いたプシュケの姉(2人います)は、その夫は怪物だろうから殺してしまった方がいいと警告し、プシュケもそれに従いクピドを殺そうとします。
夜、眠りこんだ夫を殺そうとランプでその姿を見ると怪物ではなく神のクピドでした。この時、ランプの油がクピドの肩に落ちてクピドは目を覚まします。姿を見られたクピドは、プシュケのもとを去ってしまいます。
この後、プシュケはクピドの母であるアフロディテを訪れ、許しを請います。アフロディテは穀物の選り分けや人食い羊の羊毛を集めさせる等の難題を出しますが、周りの助けにより、これらをクリアします。
最後にアフロディテは、冥界に行きペルセポネから美をもらってくるように命令します。ここでも助けがあり、プシュケは死なずに冥界に行き、美の入った瓶を手に入れます。しかし帰り途中、つい好奇心に負けて瓶を開けてしまいます。中からは美ではなく「死の眠り」が出てきて、プシュケは眠る屍となってしまいますが、夫・クピドに助けられます。
この後、アフロディテはプシュケを許し、不老不死となってクピドと正式に結婚します。
この絵画は青字部分を描いた物と思います。カタログには、
プシュケはルキウス・アプレイウスによる寓話集『黄金の驢馬』(2世紀)に登場する美少女であるが、このテキストに彼女の水浴場面は存在しない。また背景に描かれている鳩は、伝統的にヴィーナスの付随するモチーフである。レイトンは神話の内容よりも、イタリア・ルネサンスに連なる絵画伝統との結びつきを重視していたと思われる(カタログp76抜粋)。
とあります。私が読んだ本の中にも水浴の場面というのは記述されていませんでしたので、レイトンさん独自の解釈によるものだと思います。プシュケが宮殿で暮らしていた日数は詳らかではありませんが、水浴ぐらいはしていたと思いますので、個人的には特に違和感はない様に感じます。
また「伝統的にヴィーナスの付随するモチーフ」とありますが、プシュケの物語の骨格を形成しているのは女神アフロディテ(ヴィーナス)だと思いますので、アフロディテのアトリビュート(属性)である鳩が描かれているのは、ある意味、自然なような気がしています。
No:0004_0003
ヴェヌス・ヴェルティコルディア(心変わりを誘うヴィーナス)
Venus Verticordia
油彩、カンヴァス、83.8×71.2(Oil on canvas 83.8×71.2)
1864-68年(1864-68)
ラッセル=コーツ美術館、ボーンマス(Russell-Cotes Art Gallery & Museum,Bournemouth)
ヴィーナスが手にしているのはトロイア戦争の引金となった「不和の林檎」である。最も美しい女性に贈るとされた黄金の林檎をめぐる争いの審判官として、ヴィーナスに栄光を与えた羊飼いパリスは、スパルタ王妃ヘレネを略奪し、これによって勃発した戦乱のさなか毒矢に打たれ絶命する(カタログp94抜粋)。
No:0004_0004
クピドとプシュケ
Cupid and Psyche
油彩、カンヴァス、145×89(Oil on canvas 145×89)
1891年(1891)
オールダム美術館(Oldham Art Gallery & Museum,UK)
【絵画の中のギリシア神話】 プシュケの話
プシュケはとても美しかった為(もっともギリシア神話の98%以上は美女ですが……)、美の女神アフロディテより崇拝されました。アフロディテは腹を立て、息子のクピドに醜男と結婚するように仕向けますが、クピドはうっかりと「惚れる矢」で自分を傷付けてプシュケを愛してしまいます。
プシュケは神託により、花嫁としてクピドの用意した宮殿に連れ去られます。この宮殿では美しい音楽が流れ、自動的に食事が用意され、何不自由なく暮らせるようになっていました。夜になるとクピドが臥所を共にしましたが、姿は見せませんでした。この話を聞いたプシュケの姉(2人います)は、その夫は怪物だろうから殺してしまった方がいいと警告し、プシュケもそれに従いクピドを殺そうとします。
夜、眠りこんだ夫を殺そうとランプでその姿を見ると怪物ではなく神のクピドでした。この時、ランプの油がクピドの肩に落ちてクピドは目を覚まします。姿を見られたクピドは、プシュケのもとを去ってしまいます。
この後、プシュケはクピドの母であるアフロディテを訪れ、許しを請います。アフロディテは穀物の選り分けや人食い羊の羊毛を集めさせる等の難題を出しますが、周りの助けにより、これらをクリアします。
最後にアフロディテは、冥界に行きペルセポネから美をもらってくるように命令します。ここでも助けがあり、プシュケは死なずに冥界に行き、美の入った瓶を手に入れます。しかし帰り途中、つい好奇心に負けて瓶を開けてしまいます。中からは美ではなく「死の眠り」が出てきて、プシュケは眠る屍となってしまいますが、夫・クピドに助けられます。
この後、アフロディテはプシュケを許し、不老不死となってクピドと正式に結婚します。
この絵画は青字部分を描いた物と思います。カタログには、
プシュケは古代ローマの寓話に登場する美少女である。その美貌に嫉妬したウェヌスが、誰かつまらない男に恋をさせようとクピドを派遣するが、クピド自身がプシュケの美しさの虜となってしまう。正体を明かせないクピドは夜の間だけ彼女のもとを訪れ、自分の姿を見ることを禁じる(カタログp172抜粋)。
とあります。この絵画ではプシュケがクピドを見ないようにしていますが、フランソワ・ジェラールさんの「プシュケとアモール」ではプシュケにはクピド(アモール)の姿はそもそも見えない設定になっています。物語ではランプで照らした時に姿が見えていますので「見ないようにしていた」という方が正解のような気はしますが、ジェラールさんの「プシュケとアモール」は一番好きな絵画なので、それもありかと……ムニャムニャ(この絵画も綺麗ですね)。
No:0004_0005
アンドロメダ
Andromeda
油彩、カンヴァス、51×35.8(Oil on canvas 51×35.8)
1896年(1896)
テイト(Tate. Lent by Mr and Mrs C.sena 1994)
英雄ペルセウスは怪物・メドゥサの首を持って帰る約束をし、首を切って帰る途中、アトラスを山に変え、更に、岩に縛れた美女(アンドロメダ)を見つけ助けます。助けたアンドロメダと結婚し、約束通り「メドゥサの首」を持って帰ります。
美術展のカタログには、
オウィディウスの『変身物語』に登場するアンドロメダはエチオピア王の娘で、海獣への生贄として岩に繋がれたが、ペルセウスによって救い出される。女性ヌードを描く口実としてヴィクトリア時代に最も人気のあった主題のひとつである(カタログp68抜粋)。
とあります。何故アンドロメダは人身御供として岩に繋がれていたのかと言うと、アンドロメダの母親(カシオペアというこちらも美女)が「海神ネレウスの娘(ネレイス)たちより美女」と自慢した為、海を司るポセイドン神が怒り、その怒りを解く為に生贄として出されていました。
別にそれぐらいで怪物の生贄にしなくても、と思ってしまいますよね。まぁでもそれにより英雄と結婚(実はアンドロメダには婚約者がいましたが、少し卑怯者でしたので)できたのだから、いいのかな……。
詳しくは→ 【絵画の中のギリシア神話】 ペルセウスの話