絵画の中のギリシア神話
第010話 ペルセポネーの話
ペルセポネー(ローマ読みでプロセルピナ)は大神ゼウスと女神デメテルとの娘で、冥府王ハデスの妃です。母親のデメテルはオリュンポス12神の1柱で大地母神・豊穣の女神ですが、この母親のもとにいた時のペルセポネーは「コレー(「若い娘」という意味だそうです)」という名前でした。
コレーはハデスに誘拐されて、半ば無理矢理に冥府の女王ペルセポネーとなりました(特に結婚して名前が変わったという話はありませんが、そんなイメージだと思っています)。実はペルセポネーについての神話は、この誘拐の話がほぼ全てになります(この他はオルフェウス等の英雄が冥界に下りて来た時とかに出てきたりしますが、ちょい役です)。
何故ハデスに誘拐されたかというとエロス(キューピッド)に例の「惚れる矢」を打ち込まれたからなのですが、これは母親の、愛と美の女神アフロディテに勧められたからです。オウィディウス 著/中村善也 訳「変身物語(上)」(岩波文庫)の「巻五 プロセルピナの略奪[195]」には、
「<略>ミネルウァも、女だてらに狩猟好きのディアナも、わたしから離反したでしょう?豊穣女神(ケレス)のあの娘も、放っておけば、処女のままでいることでしょう。同じような望みを抱いているからです。ともかく、おまえ、わたしたち共同の主権のために--それを少しでもありがたがるのなら--あの娘プロセルピナを、叔父にあたる冥王と結びつけるのです!」ウェヌスはこういいました(p197-p198抜粋)。
とあります(ケレス=デメテル、ウェヌス=アフロディテ)。う~ん可哀想に、アフロディテさんの被害者だったんですね。ただ、逸見喜一郎・片山英男 訳 「四つのギリシャ神話 『ホメーロス讃歌』より」(岩波文庫)の「デーメーテールへの讃歌」には、
踵(かかと)の細いその娘神ペルセポネーが、雷鳴轟き眼光遠く及ぶゼウスの許しのもと、ハーデースにより連れ去られた次第も(p10抜粋)。
とあります。要はペルセポネー誘拐を、一番後ろで糸を引いていたのは大神ゼウスという事ですね。どうもこちらの「ゼウス主犯説」の方が一般的なようです。
この誘拐に怒ったデメテル(そりゃ怒るわな)は一切の作物が育たないようにしてしまい、流石のゼウスも困り「冥界の食べ物を口にしていなかったら天界に戻っても良い」という条件を出しますが、既に冥界の柘榴を口にしていました(ゼウスが図って食べさせた、という話もあります)。
この為、1年の1/3を冥界で2/3を天界で(あるいは1/2ずつ)暮らす事となった、となっています。日本で言えば「四季」の誕生で、1/3を死んだように地中で過ごし、その後、明るい地上に戻ってくるペルセポネーは穀物などの「種」と考えられています。
話的には母親のデメテルが「大地」、その娘のペルセポネーが「種」と上手い具合にまとまっていると思います。