絵画の中のギリシア神話

第003話 ヴィーナス誕生の話 

 海の泡から生まれた美と愛の女神・ヴィーナス、と言えば、誰でも一度は聞いた事があるかと思います。恐らくギリシア神話の中では知名度No1の神様でしょう。ヴィーナスという呼び名はローマ神話の女神ウェヌスの英語読みですので、当館ではギリシア神話での「アフロディテ」という呼び名でなるべく統一しています。

 

 アフロディテ誕生については2つの説があり、1つは大神ゼウスの娘というものです(母親はディオネという女神。この女神はオーケアノスとテーテュースの娘、との事ですが、残念な事に余り物語は残っていないようです)。ただこの説は「面白み」がない為か、もう1つの説の方がメジャーなようです。

 

 もう1つの説は、大神ゼウスの祖父にあたる天空神ウラノスの切り取られた「男根」の血と精液と海が混ざった「泡」から生まれた、という説です。

 

 何故「男根」が切り取られたかというと、ウラノスは妻のガイアとの子供である怪物キュクロプスと巨人ヘカトンケイルが気に入らずガイアの胎内に押し戻した為、これにガイアが怒り(そりゃ怒るわな……)先に生まれていた息子のクロノス(大神ゼウスの父親です)と共謀し男根を切り落とした、となっています。

 

 2つの説を比べると「泡から生まれた」の方が物語としては面白いですし、神話っぽい気がします。また「(一般の方がイメージする)綺麗な海の泡」じゃない所もギリシア神話らしいように感じます。

 「泡から生まれた」説はヘシオドスさんが伝えており、もう1つの「ゼウスとディオネの娘」説はギリシア神話の元祖ともいえるホメロスさんが伝えています。まぁ「面白み」のある方が絵画にはなり易いとは思います。

 

 泡から生まれたアフロディテは近くの島である「キュテーラ島」に上陸し、その後「キュプロス島」に西風神ゼピュロスの風などにより辿り着きました(地図参照)。

 とすると、男根はタイナロン岬辺りに落ちてきたのでしょうか?キュテーラ島に西風で運ばれたとなると、この辺が有力なような気がします。

 

 それにしてもキュテーラ島からキュプロス島は結構遠いです。約700km~800kmはありそうです。東京-岡山間ぐらいで、新幹線のぞみでも約3時間20分。時速300km/hの西風で運ばれたのでは、髪、ボサボサになりそうですね。時速900km/hなら1時間程度で着きますけど、優雅な西風というよりジェット戦闘機並で、この速度で移動してるアフロディテはちょっと想像したくないですね。