皇帝の愛したガラス

GLass Admired by the Russian Tsars

東京都庭園美術館

20110714-20110925

2011年7月13日(水) 晴 14時00分頃~15時00分頃


【総評】

 

 ブロガー招待による生まれて始めての招待日での鑑賞。まず最初の門で警備員の方に「招待の方ですか?」と質問されました。別に悪い事をしている訳ではないですが、これだけでちょっと緊張感が高まりました。

 

 美術館に入ると受付があり「ブロガー招待で来ました」と伝えると図録と共にプレスレビュー、プレスリリース等と共に「PRESS」の文字が入った名札を渡されました。これを付けていると撮影OK、となるようです。

 \100ロッカーに荷物を入れ展示室へ。招待日だから人は少ないだろう、と思っていましたが、結構人がいます。


 ギリシア神話関連ですが、以下の6点がありました。


1.アポローンとキュパリッソスの物語の一場面を描いた、巡礼者用水筒を模した花器

2.円形盆(バッコスの巫女)

3.3枚の盛り皿の付いた菓子器(バッコスの巫女)

4.「ウェッジウッド様式」の磁器製台座をもつ4本の蝋燭用枝付燭台

5.矢筒と子犬とともにキューピッドを描いた蓋付大杯

6.植木鉢のヤシの木を模した枝付燭台(スフィンクス)

1.アポローンとキュパリッソスの物語の一場面を描いた、巡礼者用水筒を模した花器


 最初のコーナー「ルネサンスからバロックの時代へ」に入って程近い所にありました。

 関係ありませんが、後ろが鏡になっていて写真を写している姿が映っています。腕の感じが必死さを表していますね……「顔バレ」はセーフ。


 男神アポロンが愛したケオス島の美少年・キュパリッソスと一緒にいるシーンのようですが、どっちがアポロンか今一つ分りません。アポロンであればアトリビュート(属性としての持物)として弓、矢筒、琴などを持っていますが、見当たりません。背を向けている方のお尻に革紐の様な物があり、チラッと矢筒の様な物が見えますし、もう一人の男性を指差していますので、背を向けているのがアポロンと思えます。


 キュパリッソスはとても大切にしていたペットの鹿を自分で誤って殺してしまい、悲しみのあまり「糸杉(ギリシア語でキュパリッソス)」に変わってしまいます。オウィディウス著/中村善也訳「変身物語(下)」には、

 

 からだが緑色に変わりはじめた。そして、さきほどまでは真っ白な額にかかっていた髪の毛が、逆立って、固くなり、先細の梢(こずえ)となって、星空を仰ぐようになった(P66抜粋)。

 

 とあります。糸杉に変わる何か兆候が表現されていれば「こっちがキュパリッソス」と断定できそうですが、それもなさそうです。

 

 矢筒らしい物と、指を指している事から「背を向けているのがアポロン」だと思われます……とするとこっちを向いているのがキュパリッソスですが、そんな美少年に見えませんよね……。

 

 因みにキュパリッソスのいた「ケオス島」はアテナイの近くスニオン岬から程ない距離にある島っぽく、英雄ペルセウスと母ダナエが流れ着いたセリポス島にも近い所のようです。オウィディウス著/中村善也訳「変身物語(下)」に、

 

 カルタイアの野に住む妖精(ニンフ)たちに捧げられていた(P65抜粋)。

 

 とあります。この「カルタイア」というのが、ちょっと気になり調べてみるとアントーニーヌス・リーベラーリス著/安村典子訳「メタモルフォーシス」の第1話に載っていました。

 

 クテーシュラはケオース島イウーリス市の出身で、アルキダマースの娘であった。カルタイア市のピューティア祭で、彼女がアポローン神殿の祭壇のまわりで踊っていた時(P9抜粋)、

 

 とあり、その訳注を見てみると結構栄えていたらしいです。「カルタイア市のピューティア祭」とあり「アポローン神殿の祭壇」とある事から、アポロンと関わり深い土地だったようです。このキュパリッソスの話の対象がアポロンというのも頷けるような気がしました。

2.円形盆(バッコスの巫女)

3.3枚の盛り皿の付いた菓子器(バッコスの巫女)

4.「ウェッジウッド様式」の磁器製台座をもつ4本の蝋燭用枝付燭台


 2階に上がってすぐ目の前にこの2~4がセットになって展示してあります。2と3は同じ時代に作成された物らしいですが、4は別の時代の物でした。

 またしても鏡に映っていますが、顔バレはギリギリセーフ……。


 2と3はバッコスの巫女という事で分りやすいのですが、問題は4の「ウェッジウッド」部分。

 小さい上に遠いので、ピンボケしまくりました……実際に観ても分りづらいのですが、右に赤子を逆さに持っている女性、真ん中にバスタブのような物、左に座っている女性がいます。


 ブロガーを案内してくれる方が「ギリシア神話っぽい」と話しておられました。確かにギリシア神話っぽいです。ただ何のシーンかが分りません。図録を見てみると書いていないどころか、この部分は裏面が載っています……。


 ギリシア神話で「赤子を何かに浸す」シーンと言えば「息子アキレウスをステュクス川に浸す女神テティス」が真先に思い浮かびます。ステュクス川でなくバスタブのような物にしたのは作者の脚色で「この方が表現し易かったから」とかと思いました。

 

 ただ、気になるのは右の女性(または女神)が左手に何かを持っています。写真ではピンボケしてなんだか分りませんが、私が見た感じでは「麦の束」のように見えました。「麦の束」だとすると女神デメテルの可能性があります。

 

 デメテルが「赤子を何かに浸す」シーン……トリプトレモス(デモポンとも。諸説ありますけどここではトリプトレモスにしておきます)を不死にする為に炉の火の中に入れる話があり、この可能性も少しありそうです。

 

 問題の左手のアトリビュートですが、案内してくれた方によると「松明らしい」との事でした。松明……海に関する女神テティスに松明はなさそうですし、女神デメテルも違いそうです。松明で思い出すのは復讐の女神エリニュソですが、これも違いそう。

 

 手詰まったのでジェイムズ・ホール著「西洋美術解読事典」で「松明」を引いてみると、

 

 女神ケレスの持物であり、彼女は娘を探す際にもこれを掲げる(P209抜粋)。

 

 とありました!!ケレスはデメテルの事ですので、これでデメテルの可能性が大分高まりました。逸見喜一郎・片山英男訳「四つのギリシャ神話」で対応箇所を見てみると、

 

 そして夜にはいつも、両親には気づかれぬようにして、松明を(消えないように燠(おきび)の中に)埋める時のように、その子を火の中に埋めた(P29抜粋)。

 

 とあります。松明というキーワードがここにも出ていました。同じく対応箇所をトマス・ブルフィンチ著/大久保博訳「完訳ギリシア・ローマ神話」で見てみると、

 

 両手でその子の手足をこねまわすようにして、三度その子に厳かな呪文をとなえて、それから炉の灰の中に子どもを寝かせました(P110抜粋)。

 

 とあります。とすると真ん中のバスタブは炉で、そこから出しているシーンと考えられます。左の女性はトリプトレモスの母のメタネイラと思われます。

 

 因みにこの「ウェッジウッド」が作られたのは18世紀第4四半世紀とありますので1775~1800年ですが、トマス・ブルフィンチさんの「完訳ギリシア・ローマ神話」は1855年出版ですので、他の本を参考にしているようです。

 

 また、もしアキレウスだとすると「アキレウスおたく」のエリーザベト (オーストリア皇后)が絡んでいるかなと思いましたが、1854年~1898年の生涯ですので、作成時に絡んではいないですね。

 

 という事で、


 1.女神デメテルとトリプトレモス 60%

 2.息子アキレウスと女神テティス 30%

 3.その他            10%

 

 ぐらいでしょうか…?素人推理ですので、もし、ご存知の方がいらっしゃいましたら、是非、ご教授頂けると大変ありがたいです。

 

 ……と、ここまで書いた後、綺麗な画像を入手することができました。

 非常に鮮明です。実物でも遠くて良く見えませんでしたが、これだと良く分ります。改めて良く観てみると……アトリビュートは松明ではないような気がします。左の座っている女性も同じ「何か」を持っています。断定することは出来ませんが、どうも「矢筒」のように見えます。

 

 また、左の女性の左隣にある木に「弓または2匹の絡み合った蛇」と「山羊の頭(?)」のような物が吊るされています。弓はクピド(エロス)のアトリビュートですし、山羊は「淫欲」を表します。とすると、逆さに吊られた赤子はクピドでしょうか(ただ、クピドは有翼が一般的ですので、その点がちょっと気になります)?

 

 推測するに、ギリシア神話の物語的にはありませんが、これは「クピドに懲罰を与えるアルテミス(ディアナ)または従者のニンフ」という可能性が高いような気がしてきました。再度、ジェイムズ・ホール著「西洋美術解読事典」で「クピド」を引いてみると「クピドの懲罰」という項目で、

 

 当然のことながら、クピドは純潔の擁護者たるディアナのニンフたちの攻撃目標となった。ニンフたちはクピドが眠っている間にその矢を盗み、折ったり焼いたりするし、その翼を刈り込むこともある。もう1人の処女神であるミネルヴァがクピドを打ち叩く場合もある(P112抜粋)。

 

 とあります。ディアナではなく「ディアナのニンフ」と書いてあります。ニンフだとするとアトリビュートがなくても納得が出来ます(というか、むしろない方が正しそうです)。更に「その翼を刈り込むこともある」とありますので「翼を刈られたクピド」という事であれば、マッチします。もっとも翼がなくなっていますので「刈り込む」というより「剥ぎ取った」といった方が正しいかもしれませんけど……。

 

 物語としてギリシア神話にはありませんので、ある意味「寓話」に類する物なのかな、と思い始めました。

 

 う~ん、正直、素人推理ではこの辺が限界です。もし、お詳しい方がいらっしゃいましたら、是非、ご教授頂けますと大変、嬉しいです。

5.矢筒と子犬とともにキューピッドを描いた蓋付大杯


 「ロマノフ王朝の威光」のコーナーにありました。

 物が小さいので、分りづらいですね……。ポストカードがありましたので、

 流石に綺麗です。普通の絵画は50年で著作権が切れます(戦時加算という良く分らない物を考慮しても60年過ぎれば、まずOKのようです)ので、HPに載せる事が出来ますが、彫刻等の立体物の写真は「影や写し方に創造性のある可能性」があり、著作権が撮影者に発生する可能性がある、というのが一般的のようです。


 この為、私のHPでは彫刻等の立体物は掲載していません(本当は載せたいんですけどね)。ただ、今回は許可を頂いていますので掲載しています。

6.植木鉢のヤシの木を模した枝付燭台(スフィンクス)


 スフィンクス、のキャプションに目がいきました。

 これは綺麗に取れました。満足満足、と思っていましたが、全体を取り忘れていました……。

【購入グッズ】

 

図録 \2300 (ラッキーな事に進呈されました)

 

ポストカード

 矢筒と子犬とともにキューピッドを描いた蓋付大杯 \100

 婚礼用のダブル・カップ \100

 

 クレジットカードは利用可能できませんでした(レジに利用できません、と明記がありました)。

【ギリシア神話とポストカード】

No 作者名 作品名 ポストカード
1 不明
アポローンとキュパリッソスの物語の一場面を描いた、巡礼者用水筒を模した花器
×
2 不明
円形盆(バッコスの巫女)
×
3 不明 3枚の盛り皿の付いた菓子器(バッコスの巫女) ×
4 不明 「ウェッジウッド様式」の磁器製台座をもつ4本の蝋燭用枝付燭台 ×
5 不明 矢筒と子犬とともにキューピッドを描いた蓋付大杯
6 不明 植木鉢のヤシの木を模した枝付燭台(スフィンクス) ×

【参考文献】

・オウィディウス著/中村善也訳 「変身物語(上下)」

・ジェイムズ・ホール著 「西洋美術解読事典」

・トマス・ブルフィンチ著/大久保博訳 「完訳ギリシア・ローマ神話」

・アントーニーヌス・リーベラーリス著/安村典子訳 「メタモルフォーシス」

・リチャード・バクストン著/池田裕・その他訳 「ギリシア神話の世界」